大判例

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大阪高等裁判所 平成5年(ラ)184号 決定

抗告人(債権者)

兵銀リース株式会社

右代表者代表取締役

横部愛士

右代理人弁護士

西垣剛

八重澤總治

針原祥次

主文

原決定中、主文第2項を取り消し、右部分につき本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状及び執行抗告理由書(各写し)記載のとおりであって、要するに原決定が主文第2項で、抗告人の申立てを却下し、本件土地・建物の一括競売を許さないものとしたのは、法令に違反するというのである。

二当裁判所の判断

一件記録によれば、抗告人(債権者)は、平成二年六月一二日、株式会社ゆう(債務者。以下「(株)ゆう」という。)との間で、同社に対し一億五〇〇〇万円を融資するにあたり、同社所有にかかる原決定別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)及び当時同土地上に存在した本決定別紙物件目録記載の建物(以下「本件旧建物」という。)について、これらを共同担保として、極度額を一億八〇〇〇万円、債権の範囲を消費貸借取引・売買取引・保証取引等とする根抵当権設定契約を締結し、同日その旨の根抵当権設定登記を経由したこと、しかし、本件旧建物は、当時、既に老朽化し空家になっていたため、上記当事者間において、早晩同建物を取り壊し、本件土地を更地にすることが約定され、同建物には担保価値を認めず、もっぱら本件土地のみを評価して上記融資額を定めたが、抗告人としては、本件旧建物が第三者に譲渡された事態に備えて、念のため同建物にも根抵当権を設定しておいたこと、(株)ゆうは、平成三年一月中旬ころ本件旧建物を取り壊し、本件土地を更地としたが、その後約一年五か月経過した平成四年六月下旬、上記約定に反して抗告人不知の間に、本件土地上に原決定別紙物件目録2記載の建物(以下「本件新建物」という。)を新築し、同年七月二日、同建物につき所有権保存登記をしたうえ、同年九月七日、これを本件土地とともに日高和夫、谷口晴彦及び白土洋治の三名に売り渡し(各人の持分各三分の一)、同月一四日、上記各物件につきその旨の所有権移転登記を経由したこと、抗告人は、本件土地につき本件競売開始決定の申立てをした際、本件新建物についても民法三八九条に基づき本件土地との一括競売を申し立てたが、原審裁判所は、本件土地については競売開始決定をしたものの、本件新建物については法定地上権が成立するから同建物に対する一括競売はその要件を欠くとして、その申立てを棄却したことが認められる。

以上の認定事実によると、本件新建物について法定地上権が成立することはないものと解すべきである。

そして、民法三八九条の法意に照らすと、本件事実関係のもとにおいては、本件新建物につき同条の適用をみるものと解するのが相当であるから、本件において、抗告人は、民法三八九条に基づき、本件新建物について本件土地との一括競売を申し立てることができ、原審はこの一括競売をなすべきものというべきである。

三よって、前記の理由で抗告人の本件土地・建物の一括競売の申立てを却下した原決定は、失当であるから、原決定主文第二項を取り消し、本件新建物について民法三八九条に基づく本件土地との一括競売をなさせるべく、右取消しに係る部分を大阪地方裁判所に差し戻すこととする。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官仙田富士夫 裁判官竹原俊一 裁判官東畑良雄)

別紙物件目録

一棟の建物の表示

大阪市東住吉区北田辺六丁目九一番地一・同番地二・同番地三・同番地四

木造瓦葺二階建居宅

床面積

一階 221.52m2

二階 141.79m2

専有部分の建物の表示

木造瓦葺二階建居宅

家屋番号 北田辺六丁目九一番一

床面積

一階 51.82m2

二階 34.22m2

別紙執行抗告状

主文

一 債権者の申立により、上記(別紙)請求債権の弁済にあてるため、別紙担保目録記載の根抵当権に基づき、別紙物件目録一記載の土地について、担保権の実行としての競売手続きを開始し、債権者のためにこれを差押える。

二 その余の債権者の申立てを却下する。

執行抗告の趣旨

一 原決定主文二項の部分を取消す。

二 原決定別紙物件目録二記載の建物について、民法第三八九条に基づき競売手続を開始する。

との裁判を求める。

執行抗告の理由

一 本件は、債権者たる抗告人が債務者たる株式会社ゆう所有にかかる別紙物件目録一記載土地(以下「土地」という)と同目録三記載の地上建物(以下「旧建物」という。)に対して同時に根抵当権をし、かつ根抵当権設定時には旧建物は取毀し予定であったという場合において、所有者が旧建物を取毀し、同所に同目録二記載建物(以下「新建物」という)を新築したが、債権者には新建物について追加担保設定をしないまま、土地と新建物を現所有者たる日高和夫、谷口晴彦、白土洋治郎(以下この三名を「日高他二名」という)に譲渡したという事案において、債権者が民法第三八九条にもとづき、土地と新建物の一括競売を申立てたことに対し、原決定は、新建物については旧建物と同一範囲の法定地上権(民法第三八八条)が成立するから、一括競売を許さない、としたものである。

二 しかし、上記の本件事案では、新建物に法定地上権は成立しないものであり(この考え方は現在の判例及び学説の主流を為すものである)、原決定は、法令に違反するものである。

さらに、法定地上権の成否は、一括競売の許否の判断には影響を及ぼさないとも考えられるので、この点でも原決定は法令に違反すると考える。

三 よって、原決定は取消しを免れないので、ここに執行抗告をする。

四 別途、詳細な理由書を提出する。

別紙 担保権・被担保債権・請求債権目録

一 担保権

(一) 平成二年六月一二日設定の根抵当権

極度額 一億八、〇〇〇万円

債権の範囲 消費貸借取引、売買取引、保証取引、手形割引取引、手形貸付取引、手形債権、小切手債権

(二) 登記 大阪法務局東住吉出張所

平成二年六月一二日受付第一四九一号

二 被担保債権・請求債権

下記(一)(二)記載の請求債権額合計金のうち極度額一億八、〇〇〇万円に充つるまで

(一) 元本 金一億四、〇〇〇万円

ただし、平成二年六月一二日、貸し付けた貸金元本一億五、〇〇〇万円の残元本

(二) 損害金

上記元本に対する平成四年九月一五日から、支払済みに至るまで、約定の年18.25%の割合による遅延損害金

なお、債務者は、平成四年九月一四日に支払うべき利息金の支払を怠ったので、同日をもって期限の利益を喪失したものである。

別紙 物件目録

一、所在 大阪市東住吉区北田辺六丁目

地番 九壱番の壱

地目 宅地

地積 110.77平方メートル

二、所在 大阪市東住吉区北田辺六丁目九壱番地壱

家屋番号 九壱番壱の弐

種類 店舗・共同住宅

構造 鉄骨造スレート葺四階建

床面積

壱階 40.52平方メートル

弐階 53.90平方メートル

参階 53.90平方メートル

四階 53.90平方メートル

(日高和夫持分参分の壱谷口晴彦持分参分の壱白土洋治郎持分参分の壱)

別紙執行抗告理由書

原決定は、新建物について法定地上権が発生するから一括競売は認められないとするが、これは、法令解釈の誤りであり、取消しが為され、且つ新建物について一括競売手続が開始されべきである。

本件では法定地上権は発生しないものである。

第一 事案について

本件事案の概略はつぎのとおりである。

一 抗告人は、平成二年六月、債務者に対し、土地と旧建物の購入代金として金一億五、〇〇〇万円を貸付けたが、そのとき債務者が取得・所有した土地と旧建物に、共同担保として一番順位により、根抵当権(極度額一億八、〇〇〇万円)を取得し、その旨登記手続を為した。

二 この担保取得時、旧建物は木造二階建であって、築後四〇年以上経過により老朽化しており、その建物としての価値はほとんどなく、且つこれを取毀す約束であったため、抗告人は、旧建物の価値を全く評価せず、土地のみを更地価格で約一億五、〇〇〇万円と評価した(資二)。

三 その後、債務者は平成三年一月に旧建物を取毀し、現に一年以上更地となったのち、平成四年五月頃から新建物の築造を始め、その完成により、同七月二日、自から保存登記を為した。そして債務者はその後、同九月一四日倒産したが、その倒産日に日高他二名に、土地と新建物につき、各持分三分の一宛として、所有権移転登記を経由した。

四 なお、抗告人は新建物築造には承諾を与えていない。承諾を与える場合は、新建物について追加担保を受けるのであるが、抗告人はこの担保設定を受けていない。

五 本件土地は更地価格によって評価してもいわゆるバブル経済崩壊の影響により現在約五、〇〇〇万円であり、これは残債権元本額金一億四、〇〇〇万円をはるかに下回るものである。

第二 民法第三八八条について

同条の「土地及び其の地上の建物」という場合の「建物」は、新建物を指し、旧建物とは関係がないと解すべきである。

法定地上権の有無が問題となるのは新建物についてであるから、旧建物の存在を基準として法定地上権を考えるのは不合理である。

第三 同(取毀し合意)

一 本件では土地と旧建物に対し共同担保設定があるが、抗告人と債務者との間で旧建物の取毀し合意があり、現に取毀しがあるから、この土地は更地とみるべきである。したがって、旧建物の存立のために法定地上権の成立を考える必要は全くない。

二 担保設定時の債務者の意思は、旧建物を取毀すところから、旧建物の取毀費用を要するだけのマイナス財産として評価していたのであって、そこに法定地上権が発生することは全く予想していなかった。

抗告人も同様であり、現に旧建物価格をゼロと評価し、土地を更地価格で評価していた。

したがって、当事者の意思からみて旧建物に法定地上権を考える余地はない。

三 この旧建物の取毀しは、建物の朽廃と同一視すべきものである。朽廃の場合は、法定地上権は消滅するとの考え方が一般的であるから、取毀わしの合意のある旧建物には法定地上権は発生しない。

四 ところで、最高裁(二小判)昭36.2.10民集一五―二―二一九は、更地の上に建物が建てられ、これが債権者の認めるところであっても土地を更地として評価している場合には、この建物に法定地上権は発生しない、としている。

この最高裁事案と本事案とでは、(新建物築造承諾の点を除き)実質的にみて何ら異なるところはない。上記のとおり旧建物が取毀されることが確実な場合には更地と同視すべきだからである。

第四 旧建物の法定地上権を新建物に援用する考え方は不当である。

一 抗告人は第二・第三記載のとおり、取毀し予定の旧建物については法定地上権は発生しないものと考えているが、もし仮に何らかの理由で旧建物に法定地上権を考えるとした場合でも、新建物の存立について旧建物の法定地上権を援用することはできない、と主張する。この理由はつぎのとおりである。

二 土地と旧建物とが共同担保となり、その後、旧建物が取毀されて新建物が築造された場合については、実務及び学説の傾向として、従前のいわゆる個別価値説は現在では全く影をひそめ、いわゆる全体価値説が主流となっている。これは、妥当性、合理性の観点から理にかなったものである。

現に東京地裁執行部では、この場合「旧建物について法定地上権が成立する要件があったときでも、その法定地上権は新建物には存在しない(但し、新建物に対する追加担保がある場合等を除く)」としている。

三 全体価値の把握について

(ア) 旧建物が存在する時点においては、抗告人は、土地につき「更地価格マイナス法定地上権価格」を、旧建物につき「建物価格プラス法定地上権価格」を把握していたから、全体としては「更地価格プラス(旧)建物価格」を把握していた。

この場合の建物価格は、前記のとおり老朽建物であったから、ほとんど価格はなく(老朽木材価格である)、しかも取毀し費用を要したから、建物としては、マイナス財産であったといえる。したがって、このときの「更地価格プラス(旧)建物価格」というものは、ほとんど「更地価格」に等しいものである。

(イ) ついで、取毀しによって更地となった時点では、抗告人は「更地価格」を把握していた。

(ウ) したがって、新建物が築造された時点では、抗告人は上記(ア)(イ)と同じく「更地価格」を担保把握できるはずである。このことは、新建物について(旧建物を基準とする)法定地上権が発生しないとする取扱いが妥当性を有することを意味する。

四 しかるに、個別価値説によったと思われる原決定では、価値把握について、上記三(ア)(イ)の各時点については、上記三と同様の価値把握であるが、(ウ)の時点では、抗告人は「更地価格マイナス法定地上権価格」しか担保把握しえないこととなり、担保権者たる抗告人に与える損害は極めて大きい。担保権者としては、その関与できない債務者(土地所有者)の行動によって損失を受ける理由はないし、他に担保権者にこのような損害を与える合理的理由は見当たらない。

五 原決定の、新建物に対する「旧建物と同一範囲内の法定地上権」の負担というものは、一見して、老朽化した旧建物としての土地賃借権として、ほとんど価値がないように見える。

しかし、現実は、そうではない。不動産評価の実務上、借地権割合というものが相当広く適用されており、法定地上権価格についてはこの借地権価格相当(たとえば更地価格の五割とか六割の額)とする扱いであると考えられるから、裁判所によって、前記の「更地価格マイナス法定地上権価格」は、更地価格の半額以下に激減するという扱いをされる可能性が大いにあるのである。

このように担保権者に著しい損失を与えてまで土地所有権者(新建物所有者)を保護すべき理由は全くない。

六 もし、原決定の如き扱いをするとするならば、所有者は、旧建物を取毀わして新建物を築造することによって常に新建物について法定地上権を取得することができ、新建物を担保権者に担保設定しないことによって、担保権者に損害を与え、反対に自からは法定地上権価格相当の大きな利得(不当な利得)を得ることができることとなる。

七 そして、担保権者(金融機関等)としては、土地と建物を担保とする場合の融資に於ては、常に建物取毀しを予測して「更地価格マイナス法定地上権価格」でもって全体を評価しなければならないこととなる。即ち、単純に言えば一〇〇の価値のあるものについて四〇ないし五〇の担保評価しかできない、ということとなる。その結果、所有者は充分な(一〇〇の)融資を受けることはできず、少ない融資(四〇ないし五〇)しか受けることができない。したがって、原決定の考え方は、現行金融制度そのものに大きなマイナス影響を与えることは明らかである。そして、この考え方は一般金融常識から大きくはずれた考え方であることはもちろんである。

八 原決定引用の大審院判例について

(ア) 同判例は、土地と旧建物がある場合において、土地についてのみ抵当権設定が為され、その後旧建物取毀しと新建物の築造が為された場合において、新建物について法定地上権を認めたものであるが、本件ではこれと異なり、土地と旧建物に対して共同担保権の設定があった事案であるから、同判例の結論をそのまま無条件に採用することは許されない。

(イ) 同判例の事案では、当初は建物があるに拘らず土地のみに担保設定があったのであるから、設定当時、担保権者は「更地価格マイナス法定地上権価格」の担保把握をしていた。したがって、新建物について法定地上権を認め、これが旧建物と同一の範囲内の法定地上権であるとしても、これは旧建物当時と同一の「更地価格マイナス法定地上権価格」の担保把握関係と同一であって、担保権者には全く損害がない。

しかし、もし同判例の結論を本件に採用したとすれば、前記のとおり新建物の築造により、担保把握の大きさが著しく減少することとなる。よって、同判例の結論は、土地と旧建物とを共同担保とする本件事案には採用されるべきではない。

九 旧建物は取毀しによって法律上も消滅しているのであるから、これに付着していた法定地上権も消滅する。

すなわち、旧建物取毀わし後の更地時点において抗告人が競売をしたとすれば、「更地価格」によって配当を受けうるはずであって、「更地価格マイナス法定地上権価格」によって配当を受けるのではない。このことには全く異論がないはずである。

そして、自己借地権を認めない我国の法制の下では、旧建物の法定地上権を更地となった場合にまで権利として認めることは考えられないし、もちろんその登記システムもない。ここでは、旧建物の法定地上権は更地の中に吸収される、という他はないのである。

このように消滅した法定地上権が、新建物の築造によって突然亡霊の如く再現するとする考え方は、全く不合理な考え方なのである。

一〇 旧建物があって、それがのちほど取毀された場合と当初から更地である場合とで法定地上権の有無を区別すべき理由はない。

土地と旧建物に担保が設定され、その後旧建物が取毀されて、それが長期間、たとえば二〇年以上経過している場合、この土地は誰がみても更地として認識するであろうと考えられる。この場合、旧建物の法定地上権の残影がそこにただよっているとは誰も考えないはずである。

そうすると、この更地期間が、たとえば一カ月という場合には新建物に法定地上権を認め、二〇年の場合にはこれを認めない、という取扱いをすることはどうであろうか。

この場合、いずれの時期でもってこの区別をすべきか問題であり、明らかに法的安定性を欠く。

結局、旧建物が取毀された時点で更地であるとし、その後の建物は更地上に建てられた建物であるとするのが一番合理的であり、法的安定性があると言える。

第五 一括競売について

一 抗告人は、債務者が新建物を築造したことによって、更地の上に新建物が建てられたと解し、その時点で、民法三八九条により抗告人に一括競売権が発生すると考え、その後土地と新建物が日高他二名に移転したことにより、これは債務者の所有状態と同様であり、この場合同条の適用することは判例の動向と一致するところから、一括競売の申立てを行ったものである。

二 しかるに原決定は、新建物に法定地上権があるから、一括競売はできないと判断した。

三 抗告人としては、設定時に旧建物と土地の一括競売を為しうる地位を有していたし、旧建物取毀わしにより更地の競売権を有していた。すなわち、その場所にあるすべての不動産価値を金銭化しうる地位を有していたのである。

四 しかし、原決定によれば、抗告人は一括競売権を有しないし、さらに土地については新建物に法定地上権の負担を受ける、とする。このような法定地上権負担付きの土地を購入しようとする者は全くないといってもよいところである。

この扱いは、担保権者に著しい損失を生じさせることは誰がみても明らかであり、常識的にみて許されてよいはずがない。

五 そもそも一括競売権は、建物の存立を維持しようとする制度であり、抗告人としては建物所有者の利便を考えて本件申立てに及んだのである。

六 この場合、民法三八九条の一括競売権は、条文からみるかぎり、同三八八条の法定地上権の成否と関連しているものではない。そしてこれは本来、土地と建物が同一所有者であれば建物の存立のために一括競売を認める、という制度であるはずである。このことは、建物と土地とを分離して競売しようとすることは一般的には考えられず、競落人(買受人)も一括買受けを希望していることからも判る(土地と建物とは別個の不動産であるという制度は日本における法理論上だけのことである。一般人は、土地と建物を一個の不動産と観念しているのが実体である。したがって、一括競売はこの実体をふまえて創られた制度であるといえるのである。現に、イギリス法はじめ諸外国法は土地の概念の中に建物を含めているのであり、このことからみても、土地と建物は実質的に一体とみるのが相当なのである。もっとも、本件の如き場合、イギリス法の下では、土地と建物が一体の不動産として「土地」と考える結果、法定地上権は全く考える余地はない。しかし、担保把握だけについて言えば、所有者兼譲渡抵当設定者morgagorは担保権者mortga-geeに対して、旧建物を含めた土地について、その価値部分を負担charge設定したこととなり、旧建物が毀されて更地となりさらに新建物が築造されても、新建物を含めた土地価格について担保権者はその担保価格を把握していることとなる。したがって、担保権者は、建物の改築によって影響を受けることは全くないのである)。

そうとすれば、できるだけ一括競売を認める方向での合目的的法解釈がなされるべきものである。

七 なお原決定の如く、法定地上権がある場合では一括競売権がないという考え方をとっても、本件事案では、更地のみの評価をしているところから、前記のとおり法定地上権は発生していないのであって、一括競売が認められるべきである。

八 そして、名古屋地裁昭和六〇年一月二四日決定判例時報一一五一―二七一頁も、本件同様の事案(土地と旧建物に担保設定後、旧建物が取毀され、土地所有者が新建物の築造を開始し、その後資金難から別人が新建物の所有者となり、ついでこの別人が土地所有権も取得したという事案)において、法定地上権を否定し、一括競売を認めている。

第六 まとめ

一 本件において、新建物に法定地上権がないものとして一括競売が為されても不測の損害を蒙る者はなく、各人に正当な出捐額回復が為される。

(ア) まず、債務者(あるいはこの地位を引継いだ日高他二名の所有者)は、一括競売における配当手続によって、新建物の代金を回復しうる。

この場合、新建物の所有権は一括競売によって失われるが、そもそも担保として提供している更地の上に新建物を建築した者として、民法第三八九条によってこの負担を受けるのはやむをえないところである。

(イ) ついで、競売における買受人については、一括して土地と新建物を買受け、これらを共に所有権取得するのであるから、そこには法定地上権の概念をいれる余地がない。それこそ、土地建物を一体として観念して一個の不動産を買受けるのである。

実務上はありえないが、もし万一例外的に土地と新建物が別個に売却されたとしても、登記簿上、土地に対する担保設定後に新建物が建築されたことが判るから、建物買受人の場合は収去義務を負うことが事前に予測しうることとなり、損害はない。土地買受人にも当然のこととして損害はない。

(ウ) 本件について、後順位担保権者はないから、その者の利害を考える必要はない。

(エ) 抗告人は、従前からの「更地価格」を回復することができる。

(オ) 以上のとおり、誰にとっても利得、損失の関係は発生しないのである。

二 以上の次第であるから、本事案では、新建物には法定地上権は発生していないし、また民法第三八九条の更地上に新建物が築造された場合に該当するから、原決定の却下部分は取消しをまぬがれず、土地と建物について一括競売が認められるべきで、新建物について競売手続の開始とそのための差押が認められるべきである。

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